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改装しました。 前途は相変わらず謎というか闇というか。
Posted by - 2024.09.28,Sat
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Posted by luneark. - 2011.07.08,Fri
それはシーザスターズに入学する三年前
アルマグェスト、13歳の時の出来事


「…ねえおかあさん、見せたいものってなぁに?せっかくいつもドイツに居るパパが
 日本に来てるんだから遊びに行きたいよー。あとじゃだめなの?」
「ええ。後回しには出来ませんよ、アルマ。
 とても大事な事なのです。…そう、とても、とても」
「…そう。とても大事なことなのだよ。アルマ。とはいえ、私たちが何かする訳ではないんだ
 アルマはただ、このビデオを見るだけでいい。……それだけだよ」

何処にでもある――今では少し珍しい存在か――ビデオテープ。
外側に傷は無く、テープの伸びも無い事がそのテープの再生回数の少なさを静かに物語っていた

「そうそう、アルマ。これを見る前に一つだけ、大事なことがあるんですよ」
「だからなにー?もう、二人してもー」

「…私たちは今も、貴方を愛していますよ。アルマ」

隣で深く頷く父。

「…?なに?お母さんもパパも変なの。急にそんなこと言い出して
 それより早くしてよー。はーやーくー。あそびいきたいー」
「忘れないでね。さっきの言葉」
「わかったってばー」

テレビの前にぺたりと座るアルマ。その少し後ろで二人ソファーに腰掛ける両親
そして母がリモコンをデッキに向ければ、ビデオデッキ特有の作動音が響き、画面にノイズが走る

「……………?」
程なくして画面からノイズが晴れ、どこかの屋内を写した映像が流れ出た
そのタイミングはアルマが「テープ間違えてるんじゃないの?」と言い出そうとした矢先であった
灰色の壁はコンクリートそのままであり、おおよそそれは人の居住空間というより
監獄を連想させた。そして、その片隅に一つ…いや、一人の人影があった。
それは部屋の隅でごろりと寝転がっており、カメラに背を向ける形ゆえにその顔は解らない
…けれど

その髪は銀色で
その体は良く見ると大きくて

「…………………これ………もしかして」
もしかしなくても、自分だ。でも、自分はこんな部屋?に入れられた記憶なんか無い。
…さては、寝ている間に運んで撮影したのだろう。アルマはそう考えた。
この後何かやるけど、貴方は目を覚まさず寝ていましたー、なんてどっきりなビデオだ
なぁんだ、つまんない。そんな子供だましにだまされる訳ないじゃない。

「きぃ」
重く鉄が軋む音が響く。そして
「がしゃん」
同じく、重い鉄の音

「……何の音?」
その音の重さが、アルマの眉を僅かに顰めさせた。
そして画面に映る人影、後姿。黒髪を結った和服の女。

「ん?んー………んん?」
もしかしてこれは…とアルマが振り向く。それを受け、笑みを返す両親。
再びモニターへと視線を戻し頷くアルマ。間違いない。あれはおかあさんだ。
でも何かが違う。何だろう。良く解らないけど、違う。同じだけど何か違う。

んー?と気づきはしたがその正体をつかめぬ違和感にアルマが首を傾げ
腕組みと共にモニターから離れていたその視線を、がしゃん!という音が瞬間的に引き戻す。

「……………!
「……!…………!」
「奥様、いけません奥様!どうかお戻りを…!」

「………何?何………?」
はっとモニターに顔を戻した時、其処に母の姿は無かった。
自分らしき人影は変わらず…いや、再び寝転がったようにみえた。
そして姿の見えぬ声が複数分聞こえる。それらは全く意味の解らぬ――英語、いやドイツ語だった
そのうち一つだけ、壮年の男性の声だけは聞き取れた。日本語だったからだ。
見えない状況、さっき自分が目を離した間に何があったというのだろう?
ビデオなのだから巻き戻せば済む…そんな考えが当然頭に浮かぶ訳だが
なぜかそれが出来ない。言えない。理由は不明。でも、できない。

「……ぁ…………」
さっきの人…母だ。それが再び画面の下から姿を現した。
けれどその足取りは頼りなく、先ほどと違い曲がった背筋と苦しげな呼吸が此処まで聞こえてきた。

いつの間にか全身に冷や汗を掻いていた
両手はぎゅっと握り締められ、驚くほど体全体が強張っている
さっき何が起こったのか、もう解ってる。でも、解りたくない。認めたくない。
怖い。見たくない。けれど、それ以上に本当のことを知りたい。きちんと確かめたい。

けれど、そんな心の準備が済んでいるかどうかなどお構いなく、ビデオは流れる
そして――――

「…アルマ、貴方にはいつも怖い目を見させてごめんなさ――――
 うーっ!」
苦しい呼吸の最中、文字通り搾り出した母の言葉が終わる前に、その体は…壁にたたき付けられていた
肘だ。寝転がった状態から体を捻って…ううん、そんなことはどうでもいい。
ビデオの中の自分は、既に今の自分と同じぐらいの背丈が有るように見える。
それがそう…まるで三歳児みたいな声を出しながら、それこそ三歳児がやるように…腕を、振り回した。

「………!」
「奥様、鍵を!鍵をこちらに渡してください!奥様!」
「…!………!!」
相変わらず一人以外何を言っているか解らないけど、大体何を言ってるかは容易に想像がついた。

どうしてビデオに映っているおかあさんは私を――どうしたいの?どうしてなの?
でもそれより、何よりも、ああ、ああ!

「……やめて……やめてぇぇ…………っ
 おかあさん死んじゃう、死んじゃうよぉ………っぇ………」
気が付けば、いつの間にかビデオの中の母は動かなくなっていた。
良く見れば四肢が僅かに動いていたので、まだ生きていると判別できたが…
涙で滲みに滲んだアルマの目は、それを見ることが出来なかった。
やがてぎぃ、と最初に響いた重い音が響くと…日本語の声の持ち主だろうか
壮年の男性が画面の下から駆け込んできて、母を抱えモニターの下側へと消えていった。

もう動かなくなったものに興味をなくしたのか、モニターの中の自分はまた寝転がっている
そして再びがしゃんっ、と重い音が響けば――――終わりの砂嵐が、吹き荒れた。

ぷつん
モニターの電源が切られる。
黒いモニターの画面に映るのは、ぼろぼろぼろぼろと涙を止め処なく零す自分の顔。
そしてソファーと、両親の脚。

…ああ、その上は今どんな顔をしているのだろう
モニターが両親の顔を写していないことに最初感謝し、そして程無くして絶望した。
振り向きたくない。顔を上げたくない。もし今この瞬間人生を終えられるなら、終えてしまいたい。

何秒経っただろう?
何分過ぎたのだろう?

「アルマ」
「アルマ」

母の声が呼ぶ
父の声も呼ぶ

既に212cmを数えるその巨躯が、びくっ!と明らかに怯えの色を見せた

「…ビデオを見る前、私が何と言ったか覚えている?
 忘れないでと、言ったでしょう?」
「その通り。涙の帳が全てを覆ったか。だが、それでも思い出してご覧。アルマ」
その言葉と同時に、二人がソファーから腰を上げる。そして――――

「…もう思い出したでしょう?さ、言って御覧なさい」
「愛してるって…今でも愛してるって、でも、でも………!」
「ああ、愛しているよ。二人とも、今でもだよ」
「だってあれ、あれ……!」
「…アルマ、貴方は生まれつき脳に異常があったのですよ
 それで、体は酷く大きくなっても…心は幼児のままだったのです」
「………………」
「ちなみにこれが撮影されたのは、確か…四年ぐらい前かな」
「三年ですよ。あなた」

何が違ったか?そう、今の母は老けている――――違う。ビデオの中のが、年齢に似合っているんだ

「っと、アルマ、今「私が迷惑をかけたせいで」と考えていないかな?」
「まあ本当?だとしたらアルマ、今日はお夕飯抜きですよ?」
「……え?え………?」
うっすらと笑みを浮かべ、冗談だか本気だかわからぬ言葉を交わす両親に目を白黒させるアルマ
その頭を二人の手がわしわしと撫で、体をまた両親の抱擁が暖かく包む。

「しかし、彼が合鍵を作っていたとはね。後で知ってびっくりしたよ。彼の執事としての主義に
 思いっきり反する行為だったのだからね…とはいえ、そうでなければ今頃、だが」
「全くですね。流石、長年努めていらっしゃる方はレベルが違いますわね」
その口調はまるで世間話のよう。あるいは、昨日のお昼のメニューを語るよう。
けれど巨躯の娘だけが俯いたまま。両親はそれを敢えて深く汲まず、背中を撫でた。

「……どうすればいいの?」
「…ん?」
「どうすればいいの…………?」
涙で真っ赤になった目が両親を見上げ、問いかけた。
どうすれば償えるのか。自分の頭で考えても、どうやっても償えない。
けれど、このまま昨日までのようになんて過ごせない。
そんな、絶望に彩られた問いに――――両親は、少しだけ顔を見合わせて

「ならば、我が家の娘として恥ずかしくない淑女になりなさい
 …言っておきますが、とても厳しいですよ?マナーは言うに及ばず、身のこなしから歩き方まで…
 今日から、昨日までのようにどすどすと廊下を歩くのも禁止ですからね?
 それに一部は日本の礼儀作法とドイツの礼儀作法の二倍ですよ?アルマ」
「…………私からもまた、別にあるが…それは、明日にでもするよ」
「………はい…わかりました。おかあさ……えと、おかあさ、さま…?」
「今は手探りのそれも、何れは意図せず出せるようになりましょうね」
「…はい…でも、最後に、一つだけ…」

涙は止まった。15分と無いビデオだったけれど、それを見る前と見た後では
本当に自分ががらっと変わってしまったと感じていた。けれど、だから。
そっと体を起し、少し下がって……

「ごめんなさい、お父さん、お母さん。迷惑かけちゃって」
「…はい、よくできました」
「その謝罪、確かに受け取った。という訳で、この件はこれでおしまい」
「という訳で……」
「遊びに行きましょうか。三人で」

「……え?」
「ビデオ見たら、遊びに行くって約束していたでしょう?」
「見晴らしのいい丘を見つけたんだろう?アルマ。父さんを其処に連れて行ってくれないか」
目をぱちくり、と丸くするアルマ。本当にそれで良いのだろうかと一瞬表情が曇る
けれど、直ぐに顔を上げて――――

「……はいっ」


全ては、還らざる時の向こうに。
後悔は何も変えない、変えられない。



「所で……あた、じゃなくて私の頭はどうなったのおと……っ
 どうなったのでしょう、かっ……」
「…ああ、それについては……それも、明日話そう
 何、直ぐに終わるよ。大丈夫」
「今日のが乗り越えられたのであれば、大丈夫ですよ、アルマ」
「………………ん」




-見晴らしの良い丘の上にて-
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